明石での個展が実現するまで
私の人生には、計画を立てたわけでもなく、ただ自分の「やりたい」という気持ちに素直に従ったことで、思いがけない嬉しい出来事が起こる瞬間があります。
2016年に開催された明石での大規模な個展も、そのひとつでした。
赤土で絵を描きたいという思いが、ただの好奇心からはじまり、気づけば人生の一部となり、旅の導き手となったのです。
広島の展覧会と開会式
私は、屋久島の赤土を使って絵を描きたいと思い、色々調べていたとき、昔の雑誌『月刊染織』で、藤川素子さん(染色家)を知りました。
プロフィール写真に惹かれ、作品や思いにも共感し、さらに調べていくうちに、藤川さんが展覧会を開催していることを知り、2012年10月5日(金)から10月21日(日)まで広島県のはつかいち美術ギャラリーで開催される展覧会【魂の歩み いのちの造形】に行くことにしました。
展覧会を満喫し、作品に感動していた私は、藤川さんと直接お話ししたくて話しかけました。そしたら、藤川さんとランチを共にするという流れになり、お食事をしながら、色々とお話することができました。とても共鳴しました。藤川さんが言うには、「私は、朱は描けても赤は描けない」とおっしゃっていて、赤土で描きたいと考えている私は、その言葉に強く惹かれました。

この旅では、“信頼してゆだねる”という気持ちを大切にしていたので、その出会いと出来事にとても勇気をもらいました。また、藤川さんの展覧会場に着いたとき、初日ということで、展覧会の開会式が行われており、テープカットをしていました。この旅行は、わたしにとっても開会式のようなものでした。

屋久島と明石をつなぐ赤土
広島での良き時間の後、私は実家の明石に向かいました。赤土について調べていた時に出会った本『よみがえった古代の色―万葉・風土記の黄と赤』(金子 晋著)に、古代の染色技術を復活させた赤土の採取場所が紹介されており、明石市大久保町西脇「宗賢神社」の近くにそれがあると書かれていたからです。

赤土を求めて明石へ
その情報を頼りに、母と母の友人と一緒に宗賢神社を訪れ、赤土を探しました。偶然にもその日は秋祭りの前日で、地元の方々が準備をしていました。その中のお一人、境内をほうきで掃除されていた方に赤土のことを尋ねると、なんと一緒に探してくださることに。この方が、明石の個展にご縁を繋いでくださった大塩さんです。大塩さんは考古学などに興味があり、赤土の話をすると、とても興味を持ってくださり、クワを持って一緒に探してくださいました。

汗をかきかき歩くも、土はコンクリートで囲われ、畑も赤土が見えない状態。(本に載っている赤土発見は30年以上前)あきらめかけていたときに住宅を造成しているところで発見。大塩さんの「これを見てください!」の声に走っていくと、見事な赤土がありました。感動です。ついに発見!

少し分けていただき、それを屋久島に持ち帰り、地元の赤土と比較してみると、色はほとんど同じでした。その後、私は屋久島の赤土を使った絵を描き始め、同時にはに染め(赤土で布を染める技法)にも挑戦しました。
ご縁がつながり、個展へ
その後、大塩さんが明石文化芸術創生財団に私の活動を紹介してくださいました。財団の方々は私の作品に興味を持ち、応援してくださることに。明石市は明石出身のアーティストを応援してくれる文化があり、そのサポートのおかげでご縁が広がり、2016年に明石で個展を開くことが決まりました。
明石市の文化芸術創生財団から個展開催決定のお知らせをいただいた日が、私の誕生日1月17日だったことも大きな喜びでした。財団の方が私の誕生日をプロフィールで知り、その日に電話をくださったのです。まるで、目に見えない大きな何かが「おめでとう」と言ってくれているように感じ、とても嬉しい誕生日プレゼントでした。

【明石市大久保町茜】とのつながり
実は、赤土探しで明石に行ったことがきっかけで、新たな町の名前【明石市大久保町茜】が誕生しました。2014年9月に誕生したこの町の名前には、赤土に関連した意味が込められています。雨が降ると、川に向かって赤土が流れてゆく様子を見て、大塩さんはこの地の新しい地名に、【アカイネ】→【アカネ(茜)】という名前を提案しました。区画整理され、新しい町名を考えていたときに、大塩さんと私が出会い、赤土に関連する名前を提案してくださったそうです。そして、スムーズに可決され、2014年9月に命名されました。この町の名前の誕生に関われたことがとても嬉しいです。

本当にやりたいことを大切にする
この経験から学んだことは、「自分であれこれ計画しなくても、本当にやりたいことに集中し直感に従っていると、想像以上の出来事やサポートが起こる。大きな流れは、全てうまく行くようになっている。」ということです。
私はただ、屋久島の赤土で絵を描きたいという純粋な気持ちに従っただけでした。その結果、人とのご縁がつながり、個展という形で新たな世界が広がったのです。
本当に好きなことを、損得抜きで楽しむ。その先には、きっと思いがけない、想像以上に良い流れを受け取ることができるのだと思います。
明石の個展について
個展では、赤土を使った絵画や、砂鉄の絵画、油絵、水彩画など約100点以上を展示し、屋久島の赤土で染めた「はに染め手ぬぐい」を販売させていただきました。明石の赤土も屋久島の赤土も、すごく昔の火砕流によるものとされています。これほど古い時代の赤い色が、今も生き続けているのです。
赤土(埴・はに)は、人類が最古に使った彩色とされ、ネアンデルタール人の骨にも赤土が塗られていたことがわかっています。そんな太古の色を感じる体験を、個展を通して多くの方に届けることができました。
赤土で絵を描きたい!という思いが導いてくれた今です。
たくさんの方々の応援、サポートに心より感謝いたします。一緒に喜んでくれる家族、友人たち、そして私の作品を信じて支えてくれている皆さん、目に見えない大きな何かに、感謝の気持ちでいっぱいです。この経験を通して、私はどれほど支えられてきたかを改めて実感しましたし、いまも全てに感謝しています。心よりありがとうございます。
日常の中の直感の大切さ
私は、今回のブログで明石での個展開催という、目立った出来事が書いていますが、もちろん、決してこういった目立った活動だけが素晴らしいのではなく、日常の生活の中でも、こういった出来事や幸せを感じることが多々あります。
私が大切にしていることは、毎日、瞬間瞬間、自分の好きなことをできる限り大切にし、心の奥から聞こえてくる声(直感)を決して無視しないということです。
その直感の声は、時には大きかったり、時には耳を澄まさないと聞こえない声だったりします。
その声に従ったら、思いがけない風景が目の前に開けるのです。
私は、数々の体験から、それを実感しています。